その碧い星は暗闇の中に浮かんでいた。海は青々とした水を湛え、その腕に抱かれた半分ほどの陸地は緑に満ちていた。三つの大陸があり、今はクライリーグと呼ばれている。
星の歴史は長く、幾度も覇者が現れては滅びていった。だが、それは歴史となり、最後の覇者は考えた。長く星を慈しみ、栄えさせる覇者が必要だと。そうして彼らは長い眠りについた。
星は太陽の周りを一万と二千回った。
三つの大陸のうちのひとつ、アルメキアと呼ばれる大陸は二つの種族が覇権を争っていた。即ち岩を統べるものリグナム。鉄を統べるものイグニス。
リグナムは我々人間と寸分差がなく、インジェンス共和国という太陽を神とする文明を築きつつあった。
一方イグニスは火山を神と称え、鉱石を元とするイフというある種の魔法を使い、特殊な文明を築き上げていた。何よりイグニスは人間と違い、体の一部に他の動物の外観が付いていた。それは角、羽、逆関節の脚、動物の耳、鱗などいろいろであったが、その分リグナムよりも身体能力が優れていた。イグニスたちは争い、力の強いものが王者となるドゥルム帝国を築きあげた。
「……ふたご? 双子ってなぁに?」
イグニスの王女アミッシ・イル・グラトクルスは自分の体の半分が隠れてしまいそうな巨大な本を床に広げて読みながら問うた。イグニスの歴史と予言の本であった。
アミッシは名前であり、グラトクルスは名字。イルはその種族を表す。イル族は幼少時に鬼のような角が生え、成長と共に山羊のように曲がった角が頭を守るようになる。イフを使うのに優れ、代々イグニスの女王を産みだしてきた。
山羊のような角を備えているが、それ以外は普通の黒髪を湛えた少女だった。好奇心にあふれた大きな目は、本に注がれたままだ。
「ねぇ、双子ってなぁに?」
アミッシは横に控えていたチューター(家庭教師)のドレスの裾を引きながら再び問うた。
「はい、双子とはふたり同時に生まれる子供でございます」
アミッシ付きのチューターであるエヴァはさらりと無駄なく答えた。背が高く細いエヴァは黒いドレスを纏い、背中に一対の羽があった。黒いドレスに黒い羽根、真っ白なロングヘアと透き通るような白い肌。彼女を見ていると世界が美しいモノトーンでできている気さえした。
「子供ってひとりずつ生まれるんじゃないの!?」
アミッシは驚いて聞き返した。兄や弟、妹がいるのは分かるが、同時に子供が生まれるということが理解できなかったのだ。
「はい。そうでございます。子供は一度にひとりしかうまれません。現に私たちイグニスの歴史が刻まれるようになって以来、そんなことは一度たりともございません」
エヴァはその先を語らず、アミッシが自分で本を読み進めるように再び黙った。
アミッシは再び本に目を落とす。
「あ、だから双子が生まれた時に何かが起きるのね?」
エヴァは黙って頷いた。
アミッシは楽し気に歴史の本を読み進めた。
若いチューターは、王女の好奇心溢れる目が大好きだった。自分自身本が好きで、そんなものは役に立たないとさんざん言われ続けてきたが、その技能を買われて王宮で働けるようになった。そして出会ったのが、自分以上に知識欲が旺盛な本の虫だった。
むろん王女としての生活も教えつつ、エヴァは惜しげなく自分の知識をすべて彼女に伝えようと。
「双子が生まれた時、この世界が産まれるの? 変じゃない? わたしたちの世界はもうあるじゃない?」
「はい。それは未だ解けない謎でございます。何より双子が生まれておりませんから」
「じゃあ、わたし大きくなったら双子を探しに出るね。それで世界が生まれるところを見てみたい!」
「はい。おひい様なら必ず見つけられるかと」
エヴァはそう言いながら、この聡明な少女ならこの世界の歴史を変えてくれるかもしれないと本気でそう考えていた。自分たちのような戦闘を好まない人間でも暮らせる世界に変えられるかもしれない、と。
しかし、エヴァの願いは叶わなかった。
「次のシラニの夜、インジェンスの国境に向けて進軍を開始する」
勇猛な美しき鷹と呼ばれるドゥルム帝国の女王ノーラ・イル・グラトクルスは軍団長に命を発した。月が見えない夜に一気に進軍するということだった。
実際、進軍の準備は半年以上前から進められていた。ノーラ女王は時代が産みだした天才であった。ドゥルムの王座に就くなり軍を再編成し、武装や兵法、戦略を大きく見直した。
それまでイグニス族はドゥルムという国があるものの、まとまりがなく、あくまでも魔力と兵力だけでリグナムと拮抗していただけであった。
しかし、ノーラはそれぞれの種族に適した職を与え、巨大甲虫を使った兵器や魔導鉱石を利用した新しい武器の開発を進めた。
軍隊も種族によって適性を分け、役割を分担させた。これによってドゥルム王国の戦力を飛躍的に進歩させ、インジェンス共和国と対等かそれ以上となっていたのだ。
インジェンスの人々はイグニス族は野蛮な魔法を悪用する魔族だと思い込んでいたが、そんな時代ではなくなっていた。帝国の牙は研がれ、共和国に迫りつつあった。
「恐れながら陛下」
「リルフォか」
女王の前に立っていた老剣士がゆっくりと口を開いた。リルフォ・ルダス・ギノン。小柄でがっちりした、獣の体を持つルダス族の老人であり、ドゥルム帝国の軍事顧問。
「此度の進軍、まだ時期尚早かと……」
「続けよ」
女王は剣呑そうに玉座に体を預け、続きを急かした。
「軍の練度、まだ十分ではございません。負けるとは申しませんが、このままリグナム共と戦わば、我らの損耗少なからずと考えます」
「ふむ……」
「お待ちください陛下」
ふたりの会話にぴしりとした声が割り込んだ。宰相のグレクリオ・イル・ガークス。角を持つ女王と同じイルの名を持つ美しい女性だが、同時に青い冷たさも感じさせる美貌の持ち主だ。
「剣聖と呼ばれたリルフォ様ですが、少々弱腰になっていると聞き及んでおります」
「……今なんとおっしゃいましたかな?」
リルフォは細い目を少し開けて刀の使に手をかけた。
「剣神ゼルクト様が行方をくらませて以来、まともに軍の訓練も行っていないのでは?」
グレクリオは見下ろすような目でそう告げた。
「訓練は十分にしております。ゼルクトの行方も探しておりますが、皆目見当がつきませぬ」
「もうよいリルフォ。控えよ」
「は」
女王は重々しい言い様で、30は歳上のリルファを窘め、話を終わらせた。
「お前たちの話はもうよい。進軍は予定通りに行う。リルフォよ、何とか軍を形にして見せよ」
「は。仰せのままに、陛下」
だが、リルフォはこの命令をおかしいと感じていた。女王が軍を上げる理由が今はないはずなのだ。このまま軍備を整えていても敵が攻め込んできたり、強大になるとは思えない。いったい何が女王を動かしているのか? リルフォは疑念が払えなかった。
■
リグナム、つまり我々と同じ人間の国インジェンス。王が治める平和な共和国であり、漁業、農業、牧畜により、人々は豊かな暮らしを営んでいた。
その夜は収穫を祝うグロウル祭が行われていた。
「そりゃあああああ!」
動きやすいように上半身は裸、ボトムスは軍用ズボンのみの若者数名が、巨大な丸太を両手で持ちながら一斉に駆け出す。グロウル祭の見どころのひとつ、力比べである。このまま丸太を落とさず、ゴールまでたどり着いたものがその年の祭りの王となり、栄誉を授けられるのだ。
大地をドラムのような音を立てながら男たちの脚が踏みしめていく。
「おっ?」
その時、三番を走る男が足をもつれさせた。
「いかん!」
男もあわてたが、観客席も声を上げた。
男は倒れながら、丸太を観客がいる沿道の方に飛ばしてしまったのだ。
悲鳴が飛び交った。一瞬のことで倒れてくる丸太に反応できない町の人々は自分に向かって降ってくる100キロ以上ある木の塊をただ見ていることしかできなかった。
「おっと、危ない」
パシッと乾いた音がした。丸太は倒れてこず、人々は声の方を見た。革鎧を着た青年が片手で丸太を止めたのだ。
「ト、トルア王子!」
人々は一斉に騒ぎ出した。インジェンスを治めるラングリスト王の長兄トルア。武に優れ、幼少の頃から魔獣退治の功名を上げた天才であった。格闘や体術はお手の物だった。
参加している選手に比べて細身のはずの王子は、片手でそのまま丸太を難なく操ると、落とした男の方に軽く投げた。男は慌てて両手で受け取る。
「気をつけなよ? 観客は子供も多いんだから」
「は、はい……」
男の頭の中は真っ白だった。
観ていた人々から拍手が送られ、トルアは愛想よく人々に手を振った。
「兄さん」
上機嫌のトルアに声をかけたのは、ふたつ下の弟カリオールだった。カリオールは兄より武では劣るが、優れた知能と洞察力を持ち、王室に入ってすぐ政治的な問題を解決したとして、臣民に一目置かれていた。
兄の武芸と弟の知略で国は安泰だと誰もが思っていた。もちろん本人たちもである。
「ん? どうしたカリオール」
「父上がお呼びです」
「ん? 謁見の準備か? まだ早いだろう。私ももう少し祭りを楽しみたいんだが……」
「その前に大事な話があるとかで急いでこいってさ」
「わかった。競争だ!」
トルアは一気に駆け出す。
「待ってくれ兄上……」
運動ができないわけではないが、そんなに得意ではないカリオールはのろのろと駆け出した。
「来たか」
ふたりの父であるグレクリオ王は玉座ではなく寝台に横になっていた。
「父上! お体の具合が……!?」
トルアは血相を変えて父のもとに駆け寄った。カリオールも後から入り、父の異変に気が付き、同様に駆け寄った。
「うむ……今まで黙っていたすまなかった。医術師の見立てで、余はもう長くないと言われての。なんとかもうしばらく、と皆に気づかれないようにふるまっていたが……もう限界のようだ」
「そんな……」
ふたりの兄弟は横になった父親の手を握った。細く冷たく力のない手になっていた。なぜ今まで気がつかなかったのか……。
「今日は図らずも収穫を祝うグロウルの祭り、余はお前たちという最高の収穫を得た。もうベアトリスの元に行っても怒られまい」
王は亡き妻の名を口にした。
「トルアよお前に王位を譲る。お前が時代の王じゃ。だがカリオール、お前の知恵も必要じゃ。お前を共和国の宰相に命じる。ふたりで力を合わせて国を守るのだ」
「……はいっ」
ふたりは涙を流しながら同時に頷いた。
「王位継承式は祭りの後で行うとしよう。余の姿を民草に見せてはせっかくの祭りが台無しだからの」
王は優しく微笑んだ。
「陛下大変です!」
その時あわただしく王の間の扉が開かれ、親衛隊長が青い顔をして飛び込んできた。
「どうした……今は大事な話を」
「ご容赦ください陛下! 先ほどドゥルム帝国の使者から宣戦布告を受け取りました! 国境付近にドゥルム帝国の大軍団が押し寄せており、すでに砦は陥落……!」
一瞬、病んだ王とふたりの息子は、その知らせを現実のものと受け取ることができなかった。
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