星の創りし双子-Kanoa<第4章>

カノアが剣を振り下ろすと、目の前の傀儡は真っ二つになり、文字通り糸が切れたように崩れ落ちた。

「一体でこれかよ……」

 手が痺れていた。だが、カノアは再び構えを取る。その周囲を今倒したのと同じ武装の傀儡がゆっくりと取り囲む。

「こんなところで遊んでる場合じゃないんだって!」

 カノアは叫びながら、新たな一体と切り結ぶ。手が四本ある傀儡は大振りの剣と盾を縦横無尽に操り、カノアの高速の剣を難なくいなしていく。

「く……そ……っ!」

 カノアの目が赤く光りかけた瞬間、突然空中から降り注いだ槍が、傀儡の甲虫の殻でできたボディを貫いた。傀儡はまるで人のようにがっくりと動かなくなった。

「随分苦戦してるじゃないか、カノア」

 いつもの不敵な声が耳に届いた。

「アクィラ……この狼野郎! 生きてたのか!」

 傀儡の背から飛び降りたアクィラは槍を抜いて構える。

「手伝おうか?」

 相変わらずの偉そうな言い方が、今は何より頼もしく聞こえた。

「ぬかせ! 俺ひとりでもなんとかなった!」

 と、軽口を飛ばしたが、傀儡の数はおよそ五十。機械音を出しながらふたりの周りを取り囲み、ゆっくりと包囲を狭めてくる。

 カノアはちら、と空を見る。赤に光の柱に引かれるように空に浮かぶ月は考えられないくらいの巨大になっている。

「とはいえ、あまり余裕はなさそうだな」

 アクィラもカノアの視線に気づいた。

「ああ、一刻も早くアイリスのところに行かないと!」

「じゃあ、こいつらと遊ぶのは諦めよう」

 そうアクィラが言った瞬間、軍用金冠筒の音が響いた。

 同時に城門の外から鬨の声が上がる。

「!」

 カノアと傀儡達は同時にそっちを見る。

果たして城門は倒され、ドゥルムの兵士が流れ込んできた。全員が一様に頭に赤い布を巻いている。

「援軍……!?」

「ああ、ドゥルムの旧王政派が動いたんだ。お前の説得は無駄じゃなかったよ。インジェンス軍と協力して、制圧に来たんだ」

「そうか……わかってくれたんだな……」

「……なんだ涙目か?」

「……ち、違う! 汗だ汗!」

 そんなカノアの隙を見てか、傀儡の一隊が距離を詰める。

 しかし、次の瞬間、傀儡は音もなくバラバラになり、地面に崩れ落ちた。

「カノア様。少々油断が過ぎますぞ。ここは戦場。戦いに集中なさい」

「ゼルクト先生!」

「ここの雑魚人形はやつがれ達が面倒を見ますので、アイリス様のところへお行きください」

「……達?」

 カノアが聞き返した瞬間、空から何者かが飛び降り、槍をふるった。傀儡の数体は飛び散って、動かなくなった。

「ゼルクト、腕が落ちたのではないか?」

「抜かせ、リルフォ。さ、カノア様お行きください」

「リルフォ師匠もいらしたのですか」

「うむ。星の一大事であるからな。アクィラよ、アイリスを頼む」

「はい!」

 ふたりの老戦士を背にカノアとアクィラは赤い光を噴き出している謁見の間へと急いだ。

「ゼルクトよ、どちらが傀儡を多く倒せるか勝負といかんか? もちろん隻腕のお前にはハンデをくれてやる」
「ふん。盲目の貴様にもらうハンデなどないわ」

 隻腕と盲目。本来ならば余人に大きく劣るであろうふたりはにやりと笑い、振り向きざまにそれぞれが剣戟を繰り出した。

「蒼空断絶斬!」

「ウーメルト・ズィーゼンセン!」

激しい竜巻と金属のぶつかり合う音が城の中庭に響く、竜巻が収まると、空から粉々になった傀儡の部品がバラバラと霰のように降り注いだ。彼らに心はないはずだが、外側にいて巻き込まれなかった傀儡達はじり、と後ろに下がったように見えた。

 だが、その残った傀儡達を巨大な灰色の手が一撃で薙ぎ払った。

 ふたりの老戦士の年を足してもなお足りないほどの長きを生きた、樹人ツリーフォークの長、メンターだった。

 敵が一掃された中庭でメンターはレルフォ、ゼルクトと城を見上げる。

「どうやら、星の運命が決する時が来たようだ……」

 血のように赤くなった月は、もう空を覆いつくしていた。

何人かとの衛兵と切り結びながら、カノアとアクィラは城の三階層にある謁見の間までたどり着いた。手前で衛兵が倒れている巨大な扉からは赤い光が漏れ出している。これがアイリスの力で増幅された魔力なのだ。

カノアはアクィラの方を見る。ふたりは頷きあうと、同時に扉を蹴破り、轟音と共に扉は内側に倒れた。

謁見の間はイグニスの女王が臣下と共に様々な人間を迎える部屋である。巨大な広間であり、贅を尽くされた調度品が配置されている。しかし、今は中央にある巨大で奇怪な赤い石とその前に立つイグニス摂政、そして宙に浮くアイリスの姿だった。

 虚ろな顔で両手を十字に広げ、赤い石から噴き出す光の柱の中に浮くアイリス。彼女自身の両目からも赤い光が噴出している。

 その姿を見たカノアは歯を噛みしめる。怒りの形相に髪の毛が逆立って見えた。

「イグニス摂政グレ……クリオ!」

「カノア。アイリス様の兄君。よくぞここまで参られた」

 グレクリオは女性用の甲冑を着こみ、長い黒髪を束ねて戦いに備えている。カノアが乗り込んでくることは想定していたのだろう。

「生憎と我が女王は取り込み中でな。盛大な歓待とはいかないが、もてなしを用意してある」

 グレクリオが右手をカノアの方に振ると、小さな灰色の球が地面を転がった。灰色の球は二つ、四つ、八つと倍々に増え、そのうち小さな傀儡兵128機となった。

「は、傀儡兵士ならだいぶ片付けてきたぜ。ちょっと手札が少ないんじゃないか?」

 カノアがそういうと、グレクリオは表情を変えずにもう一度右手を振った。128の傀儡兵は再び倍々になりながら、一カ所に集まり、巨大な灰色の傀儡兵となった。天井の高い謁見の間だから立っていられるが、普通の家なら屋根が抜けるほどの高さだ。

「こ、こいつはちょっとでかいな……」

「落ち着けカノア。これほどの傀儡兵を動かすのは動力的にも重さ的にも無理だ」

 と、アクィラが言った瞬間、巨大な傀儡兵は四本を手を俊敏に振り回し、ふたりを襲った。

 カノアとアクィラは紙一重で飛びのく。

「あっぶねぇ。きびきび動くじゃねぇか。アクィラ、後で言い訳聞かせろよな」

「クハハハハハハ!」

 グレクリオはおかしそうに笑うと。ゆっくりと後ろに、アイリスの方に下がる。

「これは私が編み出した微小傀儡じゃ。最初に投げた球のひとつひとつが傀儡でな。それぞれは極々小さな魔力で動く。そして自分を複製して、一億以上の数になると組み合わさって大きな傀儡になる。最後はこの通りじゃ」

「よくも、恥をかかせてくれたな!」

 アクィラはそう叫ぶと師匠から預かった神鎗を振るい、巨大な傀儡の腕を一本切り落とした。腕はゆっくりと地面に落ちて激しい音を立てる。

「ふ、でかさの割には柔らかそうじゃないか」

 果たしてアクィラが槍を構え直すと、落ちて腕は再び細かい傀儡に戻り、無くなった腕の方に移動すると、もう一度腕として再生した。

「微小傀儡は一度この形態になれば自動で再生する。さて、お前たちがこれと遊んでいる間に、私は月を落とすとしよう」

 グレクリオはアイリスの方へ向き直り、赤い石に魔法をかけ始めた。

「畜生、行くぞアクィラ!」

「おう!」

 ふたりはそれぞれ魔剣と神鎗を使い、傀儡に斬りかかった。

しかし、何十回もの斬撃を経てなお、相手は無傷のままだった。手ごたえはある。斬った部分は破壊される。しかし、瞬時にそれは元の形に戻ってしまうのだ。

「くっ」

 アクィラが疲労で膝をつく。

「……アクィラ、まだやれるか?」

 カノアは敵から目をそらさず、アクィラに手を貸そうとした。

「……なんだ、もう……疲れたか?」

 アクィラは冗談交じりに言うと、槍を杖代わりにふらふらと立ち上がった。

 だめだ、もうふたりとも体力が持たない……。

 そうカノアが弱気になった瞬間、それを感じ取ったのか巨大傀儡はかつてないスピードで斬りかかってきた。数本の腕が巨剣を袈裟に振るう。

「うぉぉぉ!」

 カノアとアクィラは同時に叫び、カウンターで傀儡のボディを一文字に断ち切った。

「無駄なことを……」

 グレクリオがつぶやいた瞬間、傀儡のボディは再びくっつき傷が無くなった。

 だが。

「なっ!?」

 カノアとグレクリオが同時に声を発した。

 接合した巨大傀儡の胴体にアクィラの左腕が食い込んでいたのだ。

「……化け物め……左腕と神鎗をくれてやる!」

 アクィラがそう叫んだ瞬間、グレクリオは察した。アクィラはわざとやりをつかんだ腕を接合部分に残して、中で神鎗の魔力を暴発させ……。

 謁見の間が白く光り、カノアとグレクリオは目を覆った。

 閃光が収まると、巨大傀儡の胴体は大きく削れ、再生も進まないようだった。

「アクィラ!」

 カノアは吹き飛ばされたアクィラの方を見る。爆発で飛ばされたが、壁に背を預け、なんとか意識を保っているようだった。

「……行け。アイリスを……」

 その一言でアクィラはがくりと首を垂れた。

 カノアは返事をするでもなく、剣を構え直した。目が赤く光り、全身から緑の光が漂う。髪の毛は気のせいではなく、本当に逆立っていた。

―あなたの生涯で一度しか使えないでしょう。使えばどうなるか、私にもわかりません。できればこの技、封印されることを願います―

 師匠の言葉が頭をよぎった。だが、今しかない。

「……!」

 言葉はなかった。だが、どんな相手でも下がらせる気迫が部屋中に満ちた。

 刹那、カノアの姿は消えた。

「……なっ!?」

 部屋には金属が擦れ合う音が響き続けていた。あとは緑の光が矢のように傀儡に当たっている。グレクリオが驚と同時に巨大傀儡に異常が現れた。手が無くなり胴が細くなっているのだ。

「なに……?」

 削られていた。

カノアは最大の高速移動で傀儡をすべて壊し始めていた。

「バカな! 微小傀儡は億万といるのだぞ……」

 巨大傀儡は抵抗もできずに次第に歪な形になり、再生できなくなっていた。そして細い棒のようになると、立ち込める煙の中、緑色の光が消え、剣を持った青年がその前に立っていた。その後ろで傀儡は巨大な音を立てて倒れた。

「……ならば俺は億万回斬った。いくら微小とはいえ、再生の魔力が追い付かなくなるまでな……」

「そんなことが……己!」

 グレクリオは剣を抜く。

「ぐ……」

 カノアはゆっくりと剣を八双に構える。だが、全身が悲鳴を上げていた。普通の人間が何日もかけるように運動量を数分でこなしたのだ。

 だが、今倒れるわけにはいかなかった。再び両手で剣を構える。

「アイリスを……妹を返してもらう!」


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DEAは、シンガポールで2018年8月に設立された会社です。ブラウザゲーム「JobTribes」「Puzzle×JobTribes」、デジタルアセットのマーケットプレイス「Digital Art Auction」を事業として展開しております。ブロックチェーン技術を活用したエンターテインメントプラットフォーム「PlayMining」を立ち上げ、「楽しむことが収入に変わる」世界の実現を目指しています。現在、PlayMining ID登録者は40万人を超えています。

Co-CEO:吉田直人・椎名茂
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設立:2018年8月
事業内容:ブロックチェーンエンターテインメントプラットフォーム事業