カノアとアイリス、そして両親がヴェナンの屋敷に匿われて2年が経った。
辺境とは言えインジェンス領である。ここにいれば事情を知らぬ人間が入ってくるのではないかという心配もあったが、ヴェナンとルーセが街に買い出しに行くことはあっても、来客は一切なかった。
「おじさんたち友達いないの?」
一度カノアが口を滑らしたことがあったが、ルーセに頭を小突かれ、その話題はそこまでになった。
ひと月ほど経ち、ここでの暮らしに慣れたところでトルアは子供達を呼んで、こう告げた。
「私たちは一度あの洞窟に戻って、調査を進めてくる」
「俺たちも行きます!」
カノアがすぐ口を挟んだが、トルアは手でそれを制して続けた。
「父さんと母さんはあの洞窟と、元々住んでいた古代人の事を知りたいんだ。そこに我々が共存して行くが鍵があると思う」
そう言いながらトルアは妻であるアミッシを見た。
「お前達はもう少しでひとりでも生きていけるようになるだろう。だから、ここで私たちの帰りを待っていて欲しいんだ」
「父様、母様……」
アイリスは母親の元に駆け寄って、その胸に飛び込んだ。
「ごめんなさいアイリス。お父さんと話し合って決めた事なの。私たちふたりなら何かあっても対処できる。でも、あなた達を危険に巻き込むわけには行かないわ」
「お前達のことはヴェナンとルーセに頼んである。実の子だと思って鍛えてくれ、とな」
「き、鍛える?」
カノアはぎくりと肩をすくめた。ヴェナンとは稽古で何度か剣を交えたが、全く歯が立たなかったのだ。
「そうだ。彼らは私よりも強いぞ? 鍛えてもらって強くなれ」
「ええぇぇぇ……」
ふたりの反論を待たずに両親は旅立って行ってしまった。
カノアとアイリスは父母を見送り、借りている離れに戻った。中は何も変わりないが、静かで広くなった。カノアは初めて両親と離れたんだな……と感じた。
「お前ら、今日からは母屋で一緒に暮らしてもらう」
ヴェナンはそう言いながら、離れの荷物を運び始めた。
「トルアからいろいろと頼まれているからな。今日からは客じゃなくて家族として家のこと、いろいろ手伝ってもらうぞ」
カノアとアイリスは少し驚いたが、ヴェナン夫婦は2人にそれぞれに部屋を与え、家族としてちゃんと扱ってくれた。
カノアはヴェナンと朝の薪割り、狩りか釣り、そして剣の稽古を。アイリスは炊事洗濯の手伝いと畑仕事、そしてルーセと弓、格闘の訓練。今日に日常は忙しくなったが、逆に両親の不在を忘れさせてくれた。
「いいかい、アイリス。最初のうちはあたしの動きをよく見てるんだよ? 一週間もしたら真似してもらうからね」
最初にルーセはこういってアイリスに手伝いを教えて行った。
ルーセの家事仕事は動きに無駄がなかった。掃除や洗濯は自然な体重移動を行い、効率良く手足を使う。料理は周囲に目を配り複数のことを最適な順番で片づける。そして食材の素早い解体、加工。これらを文字通り目にも留まらぬ早さで行うのだ。
最初のうちアイリスは目を見張るばかりだったが、次第に動きが見えてきた。
一週間が経ち、リズムや順番、力の入れ方、バランスなどを意識できるようになった頃、ルーセに言われた通り真似を始めた。
すぐに上手くはできなかったが、一ヶ月も経つと勘所がつかめたのか、ルーセと同様にこなせるようになってきた。
「いいね。勘が良い。さすがトルアの娘だよ」
「ありがとうございます!」
力仕事や狩り、剣術と武闘系の訓練を受けている兄に比べ、(家事か……)と消極的だったアイリスだが、次第にこれが戦闘訓練だと理解していった。
「あたしは元傭兵だからね。いろんな戦場、いろんなところで戦ってきた。その時にまず必要なのが、環境に関わらず効率良く動けること、状況を把握すること、そして物の使い方を覚えること」
夕飯の支度を終え、庭で弓とナイフを持たされたアイリスにルーセは話はじめた。
「使い方?」
「そう。どんな道具でも武器でもさ、どう使うと一番上手いかってのがあるんだよ」
そういうとルーセはアイリスのナイフを取って利き腕に持った。
「こう、逆手に持って刃を外に向けてれば力を入れなくても斬りやすいだろ? この状態だと剣みたいなもんだよね。でも普通に持って、力を抜くと」
ルーセは木の的に向かって腕を振った。木の的はたちどころに傷だらけになる。
「精密で威力のある攻撃もできる。両手で持てば固い物も刺せる、とかね。刃物一つでもいろんな使い方がある」
「それをお料理の時に学んでるんですね」
「まぁ、それだけだと安全な使い方になっちゃうから、こうして戦うための訓練もしてるけどね。アイリス、あんたはカノアと違って隠さなきゃいけないもんがあるだろう? だから正面から戦うってのは避けな。弓とダガーで距離をとって立ち回るのを基本にするんだよ」
アイリスは額からこめかみの方に移動してきた角に手をやった。
「はい」
「そいつが周りの人間にばれるのが心配なんだろ?」
「……はい。そろそろ布を巻いてるのも限界かなって……」
「いいもん見せてやるよ。カノアには内緒だよ」
そういうとルーセは顔の右にかかっている毛をかき上げた。
「あ……!」
そこには大きな傷跡があった。今は塞がっているが、白く痛々しい星形の跡が。
「あたしもあんたと同じイグニスなんだよ」
「そんな!」
「あんたのご両親とおんなじさ。戦争の時に怪我をしたあたしをヴェナンが助けてくれてね。この傷は、あたしが角を自分で取ったんだよ」
「……だから父はここへ来たんですね?」
「そそ。多分あたし達は誰よりもトルア達の気持ちがわかる。子供はいないけどね。だから、あんた達が来てくれてちょっとうれしいのさ。本当の子供ができたみたいでね」
「わたしもこれをとれば安心できますか?」
「止めときな。死ぬほど痛いよ」
アイリスの脅えた表情を見てルーセは笑った。
「嘘だよ。ちゃんと痛まないように薬を飲んでたからね。でもキレイなもんじゃないだろ?」
アイリスは何も言えなかった。
「トルアとアミッシさんはね、あんたをこうしないで済むように旅に出たんだよ。ふたつの種族が共存できれば角を切る必要なんかないからね……だから2人が帰った時に力になれるようにがんばんな」
そう言って、ルーセはナイフをアイリスの手に戻した。
「はい!」
「そそ。子供は元気がなくっちゃね。なーに、あたしが鍛えて半年もしたらカノアに負けないようになってるさ。まずナイフを持つ時はね———」
トルア達が旅に出て2年が経った。
しゅっ、という音を立ててカノアの長剣が突き出される。だが、その先には宙に舞う草のくずしかない。
「!」
カノアが気配を感じて剣を構え直そうとした時、アイリスはその背後に中から降り立ち、首に向けてナイフを振っていた。
金属の触れあう音が響く。カノアは辛うじて妹のナイフを剣で受けた。しかし、ナイフはいつまでもそこに留まらず、アイリスは後ろに飛び退くと体を低くしてカノアの背後に突進してきた。
「やばっ」
カノアは身を返そうとするが、間に合わず、アイリスはその足を腕で払ってカノアを転倒させた。
「ぐぅっ」
と、カノアが言うまもなくアイリスは兄の上に馬乗りになり、首に刃を当てていた。
「そこまでだ」
ヴェナンは腕を組んだまま笑いながら言った。
「どうしたんだいカノア。アイリスに全然歯が立たないじゃないか」
「アイリスが強くなりすぎなんだよ」
いてて、と言いながらカノアは土を払いながら立ち上がり、独り言ちた。
「お兄、これで21勝18敗だからね」
「ヴェナン先生―! なんかこのお猿に勝てる方法ないですかね?」
「そうだなぁ。アイリスの代わりに家事でもやるか?」
ヴェナンは笑顔のままルーセの方を見た。
「あ、それいい。わたしは狩りに行きたい!」
思ってもいない話の展開にアイリスは飛び上がって喜んだ。二年の訓練で自信もつき、すっかり性格も明るく、小さい頃のアイリスに戻っていた。
「勘弁してくれ……ルーセさんの動きについて行けるお前がおかしい」
「なによ、さっきから猿だとかおかしいとかバカにしてー」
「なーに、負け惜しみだよ。トルア、先生が悪かったね? あたしが今度は面倒見ようか?」
「……いえ、アイリスの強さを見ているだけで怖いです。ヴェナン先生の元でがんばります」
「良い心がけだ! 褒美に訓練メニューを強化してやろう! とにかく筋肉を付けんとな!」
「もう筋トレまじ勘弁して……」
カノアはがっくりと頭を垂れた。
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