最近ユーザー数が急増し、それに伴いマーケットでのNFTの取引量・額も増加して大きな注目を集めている「Axie Infinity」。
NFTブームに陰りが見えてきた中で、この急成長を実現できているのはなぜなのか?
今回はこの急成長を支える仕組みをひも解いてみたいと思います。
なお、どんなゲームか?を知りたい方はコチラの記事をまずご覧ください。
Axie Infinityの実績
Axie Infinityの開発会社Sky Mavisによると、AxieのDAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)は
7月時点で35万人を突破。5月の段階では10万人に満たない規模なので、約1カ月で3倍以上の規模に成長しています。
また、著名なクリプトランキングサイト「CryptoSlam!」によると、30日間のNFTセールス金額でトップ(7月11日時点)。NFTブームの立役者といえるNBA Top Shotに約6倍の差をつけての圧倒的1位です。
さらに、「token terminal」でゲーム以外のDeFiプロジェクトも含めた30日間の収益額でも、PancakSwapやMakerDAOなど主要なDeFiプレイヤーを抑えて、こちらも1位(7月11日時点)。
1カ月で37億円程度の収益を上げていることになります。
「Play to Earn」を支える仕組み
Axie Infinityは「Play to Earn」をコンセプトとするゲームです。フィリピンを中心にアンバンクト層に新たな稼ぎ口を提供している点がクリプト業界に限らず、広くメディアの注目を集めています。
Axie Infinityでユーザーが稼ぐ手段は主に「①マーケットプレイスでの販売(Axie/ランド/アイテム)」と「②ゲーム(バトル)でのSLPの獲得」の2つです(下図の赤矢印の部分)
ユーザーはAxieを購入してゲームをはじめ、日々ゲームをプレイしてSLPを稼ぎ、そのSLPを使ってAxie同士をブリードし、新たな子Axieを手に入れ、親Axie・子Axieを販売してさらに稼ぐ、というサイクルになっています(なお、直近のアップデートで、ブリードにはSLPに加えて、AXSが必要になったようです)。
どれくらい稼げるか?については、当然個人差がありますが、フィリピンユーザーにもヒアリングしたところ、②のSLP獲得のみを毎日やりこめば1カ月ミニマム4,000SLPぐらい、というのが目安のようです。
直近SLPの価格は上昇しており、2021年7月現在で1SLP=約26円程度なので、約10万円程度稼げることになります。コツコツやり続けるだけでこれだけの額が稼げる点はAxieの大きな魅力といえます。
なお、運営側のマネタイズという観点では、マーケットプレイスでのAxieなどの取引から生じる「マーケットプレイス手数料」とブリードの際に支払う「ブリーディングフィー」が収益として落ちる仕組みになっています。
ユーザー数増加を支える「スカラー制度」
ただ、Axie Infinityを始めるには最初にAxieを3体購入する必要があり、Axie1体は最低でも3万円以上の価格(2021年7月現在)のため、始めるだけで10万円近い出費が必要です。
これだけエントリーのハードルが高いゲームにも関わらず、急速なユーザー数の増加を実現できている背景には「スカラー制度」と呼ばれる仕組みが関係しています。
下の画像は、あるフィリピン人のAxieユーザーのツイートですが、「自分のいとこ3人をスカラーにした」という内容をつぶやいています。
スカラー制度というのは、「Axie保有者が、Axie非保有者に対してAxieのアカウントを貸す仕組み」のことで、このアカウントを借りてAxieをプレイしているユーザーは「スカラー」と呼ばれています。
Axieを保有しているユーザーは、自分の代わりにスカラーにゲームをさせてSLPを稼ぎ、その稼いだ額から一定の割合をスカラーに対して配分する、という形になります。
つまり、この制度により、ある程度資金力があり、Axieは保有しているが、ゲームはやりたくない層と、Axieを買うほどのお金はないが、ゲームをする時間は豊富にある層のマッチングを実現しています。
Axieホルダー側は複数人のスカラーを抱えれば、自分でゲームをすることなく、継続的に稼ぐことができますし、スカラー側も初期投資なしにゲームで稼いでSLPを蓄積し、いずれはAxieを購入してスカラーを抱える側に回ることができるので、ウィンウィンの仕組みといえるでしょう。
なお、この仕組みを仲介する役割を担っているのがYield Guild Games(YGG)と呼ばれるプロジェクトです。
YGGはAxie Infinityを含む、複数のNFTゲームのコミュニティ(ギルド)を束ねており、スカラー制度においては仲介・管理・勧誘などを担う代わりに報酬の売上の一部を受け取っています。
YGGは独自に資金調達を行うとともに、独自トークンYGGの発行を進めており、今後Axie Infinity以外のNFTゲームも含めてギルドをベースにしたNFTの貸し借りの仕組みの構築を進めるものと思われます。
ファンの熱量を活用する仕組み:ガバナンストークンAXSとCommunity Treasury
Axie Infinityは創業当初からプレイヤーのコミュニティと運営との距離感が非常に近いことで知られており、時間をかけて構築した強固なコミュニティが今日の成長を下支えしている側面があります。
例えば、YouTubeでAxie Infinityを検索すると、ユーザーが作成したプレイ方法の解説や稼ぎ方のテクニックの動画がたくさんヒットしますが、ほとんどが運営作成のものではなく、熱量の高いAxieプレイヤーが自発的に作成・投稿したコンテンツです。このような熱量の高いユーザーによって、ほとんど広告費をかけることなく、ここまでのユーザーの拡大を実現していると思われます。
ブロックチェーン界隈では“DAO”(Decentralized Autonomous Organization)がホットなテーマですが、Axieはおそらく意図せずに丁寧なコミュニティ育成を続けた結果としてDAO的な成長を実現した稀有な事例ではないでしょうか。
また、Axie InfinityはAXSというガバナンストークンを発行していますが、用途として、ゲームの報酬としての利用以外に、ガバナンストークンとして保有者がAxieの運営に関する投票を行うことが想定されています。
このAXSによるガバナンスが本格的に走り出すことで、現在のコミュニティをベースとした運営がより機能的に行われることになりそうです。
具体的には、Axieの公表している下図の通り、AXSのホルダーはAXSをステーキングし、そのステーキングプールとゲームから生み出される収益で構成されるCommunity Treasuryの用途を管理、自身もそこから報酬を得る、という形のようです(AXSのステーキングはまだComing soonの状態)。
まとめ
今回、Axie Infinityの急成長を支えるものとして、Play to Earnの仕組み、スカラー制度、コミュニティを活用した運営手法の3点を紹介しました。
Axieの運営会社Sky Mavisは今年シリーズAで約8億円を調達しており、ゲーム自体のマネタイズも回っていることから、今後より一層のユーザー規模の拡大と、彼らのサイドチェーンのRoninをベースとしたプラットフォーム拡大に着手していくと予想されます。
一方でPlay to Earnの宿命として、継続的にユーザーに報酬を払い続けるモデルのため、停滞・衰退が始まった際のインパクトは計り知れず、常に成長し続けることが求められます。
今後も順調な成長を続け、名実ともにNFTゲーム界の雄となるのか、どこかで成長の限界にぶつかるのか、引き続きプレイヤーの一人として行く末をウォッチしていきたいと思います。
【編集後記】
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