夜の暗闇へ2階から飛び降りると、膝に、足首に、己の体重がずしりとのしかかる。幸いなのは着地が庭の土であったこと。アスファルトであったらと思うとゾッとする。それでも痛みはあるけれど、だからといって止まっていられない。これくらいの衝撃で済ませられるのは今のうちだけだし、どう考えてもあいつらは普通じゃないからだ。
全身を黒一色に染め、物々しさを隠しもしない一団。
突如我が家を訪れた招かざる影は確認できただけで6つ。直感的に敵だと察し、僕は着の身着のまま真冬の闇へ飛び出した。パルクールのスキルをインストールして。
「……なんなんだ?」
事情はわからぬも躊躇せず逃げる。自らの置かれた状況を正確に把握するためには自由の確保が最優先。このあたりNFTハンターとして世界屈指、5本の指に入ろう父の教えをしっかり守るカタチである。なによりいくら無限の生の中に死を求めて彷徨う僕であっても己の死に方は己で選びたい。強制されるのはまっぴらだ。
フランスの怪盗のそれを模して建てられた館の庭を抜ければ、たちまち無機質なビル群に囲まれる。古めかしたレトロな洋館はコンクリートジャングルの中で一際異彩を放っていた。大ファンだという理由で父が建てたものだ。200年前に失踪した父との数百年に渡る思い出の建屋を背に、僕は冷たいコンクリートの森の、壁や、階段や、屋上を、白い息を吐きながら飛ぶ。
追われる理由は不明なれど思い当たる節はあった。例のNFTの発掘依頼だ。時系列からいえば、あれが今回の件に無関係とは思えない。
――轟音。爆発。不意に。背に。
衝撃に突き飛ばされ、前方へつんのめる。咄嗟に手を出し、アスファルトで擦る。掌を突く身体的な痛み、「何事だ?」という思考の混乱、直感的な嫌な予感。それらがほぼ同時に僕の内を巡った。しかしそのどれより早く視覚が状況を捉えている。
まるで闇夜に浮かぶ太陽がごとく――
浮かび上がった洋館は赤々と燃え、夜をさらに深くする黒い煙を濛々と吐いている。破られた玄関扉に砕け散った窓。先ほどまで僕のいた2階の書斎の壁には大穴まで空いていて、そこから格別大きな黒い影が顔を覗かせている。
そいつが僕を見つめていた。
見下ろしていた。
遠くから、しかし確実に。
僕は無意識に拳を握りしめ、身体を捻って立ち上がっていた。爪先も先ほどまでとは180度反対を向いている。頭よりも心に突き動かされて次の一歩を踏み出そうとした、その瞬間だ。
「乗って!」
厳ついバイク音とともに聞こえたのは覚えのある女性の声。振り向く間なく、まるで減速もされず、意思確認もないままに、彼女は僕の腕を掴むなり引っ張り上げ、勝手にバイクの後ろへと乗せて走り出す。
聞きたいことは山ほどある。けれど、今、1つだけはっきりしたことがある。疑惑から確信へ。目前の彼女が持ち込んだNFTの発掘依頼が今回の事態を引き起こしたのだ、ということを。
あれは3日前のことだった。僕『陰出誌恩』と彼女『エルサ・シュナイダー』が顔をあわせたのは――
人生は白でも黒でもなく曖昧で、だからこそ楽しめる。トレジャーハンターの仕事は水物だ。コツコツと労を重ねたからといって結果が出るとは限らない。ゆえに厳しい世界ではあるけれど、だからこそ創造的だ。
――などと、書斎の片隅に父を真似て一人格好つけて立ってみるも、平たくいえば「一発当たればデカい」という魅力に取りつかれているだけ。もしくは父の影響か。おそらくは前者の下世話な動機だろう、僕を突き動かしているものは。けれど最古のNFTでも掘りあてれば一生遊んで暮らせるのも事実である。際限なく続く、この一生を。ずっと。
2972二年、人類が寿命を克服してちょうど500年。それはあらたな子孫を増やすことが禁止されてからの500年でもある。つまり僕らは500年も同じクラスメイトと同じ地球という校舎ですごしているわけだ。幸いなのは同級生が60億人もいること。500年という歳月をかけても直接的な関わりを持てているのはその内の数パーセントのみ。それはすなわちあらたな出会いの余地と言えよう。けれども僕は今をとりわけ変化の少ない窮屈な世と感じている。なにせ出会いの有無に関わらず、現在の人類は総じて500歳を超えているのだから。
そんな世にもたらされた一筋の光明。
僕が待ち望んだ流動性、変化の兆し。それこそがNFTだ。目下、令和時代のそれを巡る争奪戦は激化の一途を辿っている。違法な実力行使に訴える者も少なくなく、今やNFTハンティング絡みでの死者数は事故死のそれを超えてひさしい。老いの概念が消え去った世にあって、唯一、鮮烈に死を想起させるもの。それがNFTだ。多くの者が価値を見出しているのだ。己の命以上の価値を、そこに。
「ふうっ……」
自然とため息を漏らしていた。それが停滞からのみにもたらされたものでないことが救いだ。半分は感嘆に値して。いつ見ても美しいのだ。己のものとは思えぬ優雅な手つきで珈琲を淹れる、己が両手。眼下にそれを眺めながら僕はゆるりと香りを楽しむ。
「伝統芸だったり職人業というのか……研ぎ澄まされた技術というのは、やはり凄いな」
無駄な動きが一切なく、それでいて機械的でない。体温を保ったままに洗練された所作はまさしく芸術。僕の手が、指が、必要な分だけ寸分違わず豆を取り出し、挽き、適切な手順をおって珈琲を淹れていく。
「僕もいつか……なにかしら……」
父とは異なり、とりわけ突出した技術のない僕である。けれども夢を見るのは自由だろう。何者かになりたい。歴史に名を刻みたい。そうした承認欲求はいつの世も不変で、だから多くの同級生同様、僕もまた生まれたからには1つくらい高値で取引されるオリジナルのスキルNFTを創出したいと願っている。同時に不可能だろうけれど、という理性的な諦めつきで。
「うん。美味い」
口に運んだ熱々のカップからそっとひと口飲んでみた。毎回同じリズムで淹れられ、毎回同じ量で仕上がり、毎回同じ温度で完成する、毎回同じ珈琲。もちろん毎回美味しい。しかし今日はふと疑問が沸いた。
「この味わいの何割が味そのものなのだろう?」
香りが占める部分もあろう。また「己で淹れた」という体験に加点される部分もある。僕の場合はさらに父の形見という要素まで追加されるが、果たして。
「ふうっ」
ふた口目。今度は純度100パーセントの感嘆が漏れた。漠然とした暗澹を丸ごと飲み込む深い色、味の魅力に誘うべく不純物を残らず忘れさせてくれる香り。さすがは今は亡き彼の有名バリスタ、ワトソン氏の『珈琲を淹れるスキル』である。ワイン同様にスキルも抽出時期によって同じ銘柄のものが年代別に出回ることが常だけれど、ワトソン氏のこれは本人の意向あって2121年モノしか世に出ていない。逆にいえば、彼が、ベストのコンディションで、ベストの年齢で、ベストのタイミングで淹れられた、と納得の太鼓判を押した時の所作である。世界に100点しかない希少なスキルだ。
有限。限定。レア。何事であれ数に限りがあるからこそ、そこに価値が生まれる。それは金塊であっても、デジタル資産であっても、そして……。
Non Fungible Token――
NFTはデジタル資産だ。複製が容易であることで無価値へ陥っていたデジタルデータに対し、ブロックチェーン技術をもちいてオリジナルを明確に判別可能とすることで数量を限定する機能を設け、そこに新しい価値を創出している。
ゆえに一重にNFTといっても裾野は果てしなく広い。要するに数量限定のデジタルデータなわけで、動画コンテンツにアート、電子書籍、また歴史の転換点を示す著名人の電子メールなど。果ては仮想空間の土地やアバターの着せ替えデータまで。そんな中で、今、とりわけ価値を認められているのが個人の持つ優れた技術である。
スキルNFT――
珈琲のように技術者の脳から丁寧に抽出した電気信号に汎化加工を施し、他者へインストール可能なデータとすることで誰でもそれらの技術の再現が可能となった。具体的には脳内へのデータインストールキー、差し詰め使用許可証がNFT化されており、それを持つと証明できる者のみ己の脳に該当の信号を取り込める。もちろんいくら汎化されたからといって、誰でも、どんなスキルでも、一流どころよろしくと再現できるわけではない。とりわけ運動スキルは身体機能やサイズによる相性によって再現率が極めて大きく変動する。言わば使う者を選ぶスキルだ。けれど料理やアート、たとえば僕が使った珈琲を淹れるスキルのようものは、ほぼ万人が高いレベルで再現可能であり、だからこそ人気も高い。取引相場もかなりのもの。僕には不釣り合いな高級品である。
「……代わり映えしないな」
珈琲から離れるなり、再び退屈が襲ってくる。暇つぶしの方法や刺激を得るためのノウハウがこれほど重要視される世は今だかつてなかったろう。時間が無限にあるからこその茫漠とした閉塞感。父が失踪したのもおそらくこれが原因で、おそらくもうこの世にはいまい。我が父の場合、難解極まりないデジタルダンジョンに嬉々として挑戦しつづけている可能性もゼロではないけれど。
腰を少しだけ伸ばしてから椅子深くに身を預け直し、再び珈琲のカップを手に取る。首を回してから視線で宙空にディスプレイを展開する。これも父が残してくれたもの、というか置きっぱなしにしていったものだ。「どれが?」と問われれば答えは「すべて」である。この八畳の空間に僕が物理的に持ち込んだものはない。革張りの如何にもな椅子に天板の広いデスク、どれも年代物のフランス家具だ。天才トレジャーハンターとして数多のNFTを発掘した父、数学者にして考古学者でもある彼の趣味趣向である。VR世界への滞在時間がリアルのそれを上回る世にあって、どうしてそこまでリアルを追求するのか、とかつては理解できない部分があったけれど、VR空間にある父の書斎がこれとそっくり同じであることを知ってからは、もはや純粋に熱狂的なアルセーヌ・ルパンファンとして認識している。あるいは父はもうルパンよりもルパンなのかもしれない。モーリス・ルブランがイメージしたルパンがすごしたであろう空間で、父はルパン以上の歳月をすごしたのだから。
「さあて、どこかに面白いターゲットは?」
次の狙いを定めあぐねて無為に時間を浪費している、その時だ。エルサ・シュナイダーから連絡が届いたのは。
「……なんだ、これ?」
依頼としてのNFTハンティングもはじめてではない。手掛けた案件の中ではむしろそちらが多いだろう。しかし数ある依頼の中、エルサのそれはまったく異質だった。
――発信元を秘匿された電子メール。
恐ろしく手の込んだ暗号化である。なによりこの手法は届ける相手を選ぶ。まさか文章が絶滅してひさしい世でテキストコミュニケーションを要求されようとは。しかも依頼を、お願いを、する側から。依頼相手の、すなわちは僕の、力量を測ろうとでもいうのだろうか。
また、僕の興味をさらに惹くのはそこにある内容だ。このバーチャルがリアルを包括した世界で、詳細は対面で伝えたいと書かれているのである。報酬も報酬、真実ならば破格の破格。令和のロゼッタストーンこと、ジャック・ドーシーの人類初ツイートときた。彼女があのNFTの所有者であるなどと、にわかに信じがたい。
けれどもエルサはそれを、それらの情報を、僕にテキストで伝えてきている。それも日本語の。僕はそこに、ただならぬ事情と非日常のスリルを感じ取った。
ところで日本語に限らず、文章はかれこれ800年も昔に滅んでいる。己のイメージを相手に直接伝えられるテレパシーデバイスが普及し、言語の壁が一切無くなったからだ。それに起因してか、かつてあったとされる国の境界は瞬く間にぼやけ、同時にコミュニケーションツールとしてのテキストが絶滅した。メールだったり、それこそツイートだ。アクセラレイション技術の発達で動画を圧縮して脳に読み込ませられるようになったのも大きな要因だろう。これによって動画コンテンツの可読性が一気にテキストへ肉薄した。そうして急速に必要性を失ったのだ。文章、テキスト。とりわけ最も理解の難しい日本語は。これを習得している者など、今では考古学者の中でも一部のマニアしかいない。僕のように父の残したあれこれを漁っているうち好きになったレアケースを除いては。
「……ダメ元か? あるいは僕が日本語を読めることを知って……いる?」
疑問、懸念、興味。それらの微かな引っ掛かりがまだ見ぬ彼女との対面に向かわせる。結局のところ僕もスリルジャンキーなのだろう。多くのクラスメイト同様に。程度の差こそあれ慢性的に刺激を求めているのだ。質の、良し悪しに関わらず。無限に続く一生において最大の敵は暇と惰性だ。年間の自殺者数が1000万人を下回ることがないことからもあきらか。すなわち適度な変化は人間が生きていくうえで必要不可欠なのだ。
「とりあえず話を聞いてみるか……」
〈遺伝子データ?〉
なるほど。対面でなければ伝えられなかったわけだ。遺伝子情報のデジタル化および取引は法律で固く禁止されている。すなわち遺伝子NFTは御法度なのだ。一時期……といってそれは僕の生まれる前の話だけれど、かつてはトランスヒューマニズムの流れを汲んだ遺伝子操作が人気を博したらしい。しかし技術の進歩とともにあきらかになった数々の問題から今に至る。そこでの研究の副産物がテレパシーや老化防止の仕組みなのだけれど、ともあれ遺伝子情報の取り扱いは500年前に禁止された。さらに400年前には保存されていたすべての過去情報が破棄された。あたらしい人間の増えない今、同級生たちの傾向は既に分析し尽され、医療面での活用方法は個々人へそれぞれ確立済み。となれば、もはやメリットよりデメリットの方が大きく、遺伝子情報は一律で廃棄されたのだ。二度とデジタル化されないよう法整備されて。
「今日はお時間をいただけてありがとうござます」
しなやかに頭を下げた彼女は17、8歳あたりで肉体年齢が固定されていた。記憶容量や身体機能が最大化される年齢は個々に異なる。僕らはそれを生まれた時にAIによって判断された。いくつかの候補が挙げられ、最終的に己で決定する。技術上、一生に一度しか選択はできず、人生最初に訪れる大きな選択こそ、年齢確定だろう。自由選択世代の僕は24歳で年齢を固定をしている。
「彼の有名なインデ氏のご子息にお会いでき――」
エルサの金色の髪が応接間の照明や暖炉の炎を吸って赤味を帯びる。その薄い頬も。ルパンの館を模した洋館に彼女は家主の僕よりしっくりとおさまった。そちらの流れを汲む遺伝子を有しているのだろう。対して僕は父親譲りの黒髪に瞳も黒だ。
〈筆談と会話を同時にお願いします〉
驚きながらも応じる。なんとも器用な女性であった。己以外でこれを出来る人間を僕は他に1人しか知らない。父である。幼い頃から遊びがてら、こうして二重会話を楽しんだものだ。父曰くテレパシーデバイスが盗聴される可能性を想定して、である。目前の依頼主も同様の思いから、とは聞かずとも察せられた。
「私は『エルサ・シュナイダー』と申します」
「ご足労をお掛けしました。『陰出誌恩』です。父をご存知のようですが、実際にコンタクトしたことも?」
「いえ、一方的にお名前を存じているだけです。お父様は非常に有名な方ですから」
〈お父様とはこれからお話しする案件で以前より――〉
口頭での受け答えとは裏腹、眼前のリアルな紙への記述で彼女が父と面識があったことが伺える。会話は当たり障りない内容に留め、視線は手元でなくエルサの顔へ。対干渉電波障壁を展開している我が屋の中はよほど心配ない。けれど視覚情報だって脳に届くまでの刹那の間にハッキングされないとも断言できない。情報へのアクセスは最低限に抑えるのが基本だ。時おり窓の外へ視線を走らせるようにして彼女の綴る日本語を拾う。
〈遺伝子情報のデジタル化は違法では? なにより既にすべてが破棄されているはずですが?〉
〈おっしゃるとおりです。現存する60億人分の遺伝子情報は完全に破棄されています。またそれ以前のものも削除可能なデータはすべて消去されています〉
〈削除可能な、となると例外が?〉
〈消去不可能なカタチで残されたデータがあるのです〉
〈ブロックチェーンに遺伝子情報を? 事実であれば重罪です。しかし、そもそもセキュリティの目を潜ってそれを実現できるとはとても思えないのですが?〉
〈法で厳格に制限されたのは400年前。禁止が確定路線になったのも500年前。しかし遺伝子操作が流行り、その後の諸々の問題が発覚しはじめたのは800年前です〉
〈まさか、年齢固定が普及するより前のタイミングで?〉
〈2022年、旧日本暦で令和の4年に遺伝子情報をNFT化した人物の存在が発覚しています〉
「千年も昔にだって!?」
思わず口にし、僕は立ち上がっていた。正確には955年前。そんなに気の遠くなるような昔に遺伝子情報をブロックチェーンに刻んだ人間がいるだなんて。驚きを即座に隠し、会話の側は適当に誤魔化しにかかる。目に見えぬよう呼吸と気持ちを整え、筆談で核心に迫る。
〈それは本当ですか?〉
〈事実です。しかも、これは1人ではありません。記録によれば最古とされるものは、もっと前。ハーバード・メディカル・スクールの遺伝学教授ジョージ・チャーチ氏が2021年のはじめにご自身の遺伝子情報をNFTにしています〉
〈何人も? しかもブロックチェーンに刻むだけでなく、NFT化となると販売目的で?〉
まったく信じがたい暴挙である。遺伝子情報は最大の個人情報だ。それを己のために記録しておくのならまだしも、販売・公開するだなんて。
〈今と昔では技術水準が違うので彼らと我々とでは事情が少し異なってきます。当時は自身の遺伝子情報が流出しても実質的な被害はなかったものと思われますから。諸々の問題があきらかになっている現在ほど悪用されるイメージは薄く、だからこそそれほど危険視されていなかったと推測できます〉
〈なるほど。それは一理ありそうですね〉
〈そのため新しい技術に関心の高い一部の層が右に倣えで続いています〉
〈そんな大昔に複数の遺伝子NFTが作成されている、ということですか?〉
〈大昔だからこそ、作成されているのです。禁止されてからはでは不可能ですから。また危険性の認知が薄かったからこそ、でもあります。おそらく当時は電子ゴミにこそなれどリスクはない、と判断したのでしょう。これは一部の人間以外には伏せられていますが、紛れもない事実です〉
〈価値は稀少性の高さが生みます。何人分もあるとなると、今回の件もそうした既知の人間の間では驚くほどのことでもないのでは?〉
〈そうでもありません。削除できないものは管理するしかない。ゆえに300年前に過去の遺伝子情報を管理する組織が創られました。そしてすべての遺伝子NFTを管理できているつもりでいました〉
〈未管理のあたらしいものが、出てきた?〉
〈そうです。あなたのお父様が別のNFTのハンティングを進める過程で手掛かりとなる情報を発見されました〉
〈父は200年前に失踪しておりますが?〉
〈本件に従事されていたのです。インデ様のお父様も、私同様、先の遺伝子情報を守る組織の一員でした。外部顧問という形で。本当に失踪されたのは2週間前です〉
情報量が多く、混乱して会話の方が疎かになりそうだ。父は実のところ失踪しておらず、秘密裏に200年もハンティングに挑でいた。それでいて最近になって本当に失踪したのだ、と彼女は言う。
〈今回の依頼案件は、父が200年かかっても手に入れられなかったNFTだと?〉
〈あちこちから横槍の入る非常に難易度の高い案件なのです。お父様ですら簡単にはいかないほどの〉
「――珈琲のお代わりはいかがですか? それとも紅茶に変えましょうか?」
「それでは同じものをもう1杯お願いします。驚きました。私はさして味に詳しくない素人なのですが、これほど美味しいと感じた珈琲ははじめてです」
「父の形見……自慢のスキルです」
椅子から立ち上がり、再び珈琲を淹れる。身体は自動的に動くから思考は自由に解放できる。管理できていないNFT、すなわち所有者不在NFT。目下、争奪が激化しているNFTは決まってそうである。逆に言えば、所有者が不在でなければ僕らトレジャーハンターのターゲットには成り得ない。
NFTには永続的に製作者にロイヤリティが入り続ける機構が組み込まれている。取引の都度、手数料が支払われるのだ。かつての、それこそ太古の、ピカソやゴッホなどのアナログアートと比しての決定的な差はそこだ。古来、アナログアートは原則売り切りだった。一度売ってしまえば、その後、何度転売されようと、どれだけ価値が高騰しようと、製作者は名誉しか得られない。それゆえ、時に、転売屋のほうが製作者より利益を得る、という不自然な結果を生んだ。けれどNFTであれば、転売の都度、販売価格からみて定められたパーセンテージが製作者に入る。これにより高値で転売されればされるほど製作者は豊かになり、転売は製作者への応援としてその意味を変えた。これが令和の時代に起こり、今なお受け継がれているパラダイムシフトの1つだ。
しかしNFTの永続性を本当の意味で人類が理解するのは、もう少し先の時代になってからだった。それだけの技術があっても結局のところ人間はNFTの永続性を信じていなかったのだろう。もしくは理解できていなかったのか。それらロイヤリティが自動的に振り込まれる暗号資産の口座を永続的に管理する仕組みまでセットで確立していなかったのだ。そのため製作者の死後も取引の都度、発生しつづけるロイヤリティが所有者不在の口座に蓄積され続ける事案が発生した。特に令和初期のもので。その事実が発覚したのが昨今で、それらをデータの山から発掘し、鍵を開け、所有を己のものとするのがNFTハンターである。
埋没ケースは千差万別、該当するNFT自体が今なお第一線のアートとして取引され続けているものもあれば、今や取引はされておらず、かつてのロイヤリティが眠っているだけの所有者不在NFTもある。ともあれ、発掘して所有権を得られれば蓄積済みのロイヤリティは己のものだ。その後に発生する取引手数料までも。これが一攫千金の夢を創り、数多のトレジャーハンターを誕生させることとなった。父や僕のような。
とはいえ、今回の案件はロイヤリティとは無縁だろう。その存在を秘密裏に管理するための発掘だ。だからこそ報酬が破格、2006年に発信された人類初ツイートを刻んだNFTなのだろう。およそ千年前に残されたこの短文は内容よりも博物館に飾られるような歴史の転換点たる価値がある。文章こそ絶滅したもののツイッターをはじめとする古代のSNSの仕組みは千年を超えてなお、現代社会の構造に影響を与えていること言うまでもなく、だからこそ価値は高い。僕の持つ珈琲スキルとはそもそもの桁が違い、比較できないほどのお宝である。正直、僕ではその価値を正確に測ることすらできない。
2杯目の珈琲をその場で2人分用意し、テーブルへと並べる。暖炉の炎はいつの間にやらエルサの頬や髪を染めるだけでは飽き足らず、彼女の瞳にも火を灯していたらしい。エルサ・シュナイダーがゆるやかな口調で謝辞を述べつつ、しかし鋭い眼光で僕を見据えてくる。
〈お引き受け願えませんか? これはあなたにしか成し遂げられないハンティングです〉
〈それは僕の返答を左右する要素にはなりませんが、1つだけ先に。父であればいざ知らず、僕には僕にしか成し遂げられないハントなど無いことは理解しています。さすがに己の分は弁えておりますのであしからず〉
〈いえ、これはあなたにしかできません〉
エルサの断定はこれまでで一番太く濃く力強い文字で突きつけられた。もしや嫌味に受け取られてしまったのだろうか。テキストは感情を乗せられない分、得てして誤解を生み安い。特に、気心の知れていない初対面の相手の場合は。僕としては悪気なく、謙遜……というより分不相応な期待への牽制が目的なのだけれど。
〈なぜ、そう思われるのですか?〉
〈あなたのお父様が、あなたにだけ解読できる形式で、これまでの調査状況を暗号化されたからです。失踪される直前に〉
危うく珈琲を吹き出しそうになる。200年も音信不通だったくせに一体なにを勝手に巻き込んでくれているのだ、あのルパンマニアは。
〈インデ様は「引き継げるのは息子だけだ」と私にだけ残されていきました〉
次に僕に訪れる疑問を先回りし、エルサはすらすらと文字を、日本語を、書き連ねていく。
〈お父様は組織内部にも裏切者がいると考えておられました。そこでかねてよりの思想の一致から、私にだけ、託されたのだと思います〉
真偽は定かでないし、その思想とやらも非常に気になる。まさかエルサとは僕のあらたな母になる云々といった関係ではあるまいな、と。なによりあの父が200年も発掘に至れなかったとあればよほどの大仕事だ。想像以上に危険な依頼なのであろう。だからこそ僕の中では、これ以上を聞くまでもなく答えが出ていた。
〈引き受けます〉
未だ続きをあれこれ書き連ねようとしていたエルサの目が驚きに見開かれる。「まだ説明の途中だ」とでも言いたげで実に愉快だ。彼女のように根っから組織に属するような堅実な人間は、父や僕のようなトレジャーハンターの気持ちは理解できないだろう。そこに危険があるならば、新しいスリルを得られるならば、僕らはそれを断ることができない。そういう一種の病なのだ。
〈父との関係諸々はおいおいご説明願います。結果は保証できかねますが、まずは全力で取り組むことをお約束します。つきましては、早速、さわりの部分だけでも情報をいただきたく〉
「それでは早速登場していただきましょう。第1回のNFT小説大賞を受賞されました――」
エルサ・シュナイダーがスーツケース型の物理的なハンディ金庫からおもむろに取り出したのは骨董品よろしくの再生専用デバイスである。このご時世に通信機能のないハード機器など探すほうが難しい。眼前の画面つきの箱に手掛かりらしき動画は直接保存されているようだ。
〈こちらの動画の持ち出しおよびオンライン接続は避けてください。どこから情報が漏れるか見当がつきません〉
一緒に眺めるべくカーテンを閉めた流れで僕の後ろに回った彼女が後方からメモを見せてくる。すなわち競争相手はそれほどの手練れということだ。彼女のこめかみへの視線から脳に埋めた生体記憶媒体への保存も不可であることが察せられる。となれば記憶スキルを使っての持ち運びも不可。「やれやれ」と僕は筆談でもなく肩を竦める仕草で応じる。
動画が始まって5分と少し。そこでエルサの話がたちまち真実味を増した。音声が不自然に消去されている。古い時代の動画とはいえ、映る者たちの顔が不自然にぼやけるのも、そう察さられた一因である。読唇術が使えないよう細工されているのだ。情報漏洩を避けるべく父が仕掛けたセキュリティに違いない。僕はピンときて、心配そうに見つめるエルサを他所に、デバイスをあれこれ操作する。はじめて触る機器だけれど、幼い頃に父と遊んだものの中に似た形状のハードがいくつもあった。
『SF作家の田中伸幸さんです』
やはり、である。驚愕するエルサの顔が僕の肩越しに画面を覗きこんでくる。今の時代では存在すら忘れられた、字幕機能だ。これをオンにして視聴する。たとえそれが分かっても日本語をテキストとして読めなければ情報は得られないという二重の暗号化だ。
『今回は審査員である上木則安さん、せきぐちあいみさん、ファオさんにもお越しいただいております』
オープニングの雑談を終え、画面内の出演者が次々に紹介されていく。エルサ曰く、左端に立つSF作家見習いの男が遺伝子NFTの所有者らしい。
『今回の受賞特典に小説内に登場するNFTの商品化とありますが、田中さんの場合は遺伝子情報……ということになりますか? いかがでしょう?』
『はい。僕はかねてより健康管理や自分のルーツを知るために遺伝子検査を受けています。たとえば自分のハプログループがDだと把握しています。僕の先祖はどうやらアフリカからインド西部、中国南部、日本と渡ってきたらしいです。先方の調査機関との調整にはなると思いますが、個人的には、可能であれば自らの遺伝子情報をNFTにしたいと考えています』
『それはまた驚きの要望ですね。ちょっと内容が内容なだけに実現可否は明言できませんが、遺伝子情報という個人情報を公にするリスクについてはどのようにお考えになりますか?』
『もちろんリスクはあると思います。不勉強ゆえ、それを小さく見積もってしまっているのかもしれません。しかし僕の考え得る限りでは現時点ではデメリットよりもメリットのほうが大きいと感じます』
『っと言いますと?』
『まずもってのメリットとしては僕のような無名な作家にとって大きな売名になります。日本初というのは目立ちますので』
『WWW』
画面を右から左へ。VでもなくZでもなく連なるWが流れていく。これがかつて笑いを示す記号であったことを僕は父から教わっている。考古学者でもよほどの物好きでもなければ知らないニッチな情報である。
『さらには公になり、人目に多く触れることで、病気のリスクなり、あれこれの問題の早期発見につながるかもしれません。僕には子どもがいるので、僕向けには間に合わなくても、あるいは子どもの役に立てるかも?』
『逆にデメリット、リスクについては?』
『リスクが顕在化する頃には僕はもうこの世にいないでしょう。遺伝子情報から指紋や虹彩を作成してセキュリティを突破されたりとか、クローンが作られたりとか。そんなものはSFです。そういう世界を見てみたいと願ってはいますが、実際、実現するのはまだ先だと思います。そもそも僕の身近で生体認証で動くシステムがまだほとんどありませんから。スマホの端末ロックが指紋認証対応になってるくらいでしょうか? あっ、でも、僕は暗証番号派なので指紋は設定してませんけど』
『WWW』
『だから何かあるにしても100年とか200年とか先のことでしょう。なんだったら逆に未来の世界でクローンとして蘇らせてもらえるかもしれないですし』
まったくもって、だ。問題の顕在化は955年後だと画面に映る当人へ伝えてやりたい。無音なので声の調子はわからないし、娯楽番組らしいので面白おかしくする演出が入ってはいるのだろう。しかしそれでも僕の予想以上に令和の人間はまともな思考を持っていたようだ。リスクを把握できていなかったわけでなく、理解したうえでの行動というわけか。言うまでもなく遺伝子情報のデジタル化が禁止となった背景には、画面の男が言う諸々の問題が顕在化したことによる。
『アナグラムではないですけど、個人的にはNFTは――Nobuyuki Feat. TANAKA――の略だとも勝手に思っていまして。我らが田中の血族を代表して僕がやっておかないとな、と。っと言ってしかし、遺伝子情報が公開されることでなにかしら僕の子孫だけ不利になるような呪いのような事象が発生すると困りますけど。そこはもう先祖としてこの場を借りて先に謝っておければと思います。ごめんなさい』
『WWW』
授賞式と冠されたその動画は2時間も続くらしい。オンライン接続が可能であればアクセラレイションで圧縮し、1秒かからず読み込めるのだけれど、今回はそうもいかない。僕は集中力の限界とばかり30分で一区切りし、エルサとの会話に戻る。
〈なかなか興味深い内容ですね。残りも後で見ておきます。ところでこのSF作家見習いという彼のNFTだけ発見されていなかったのはなぜですか?〉
〈見習い、無名、であったからでしょう。有名な遺伝子の研究家や起業家は遺伝子情報をNFT化したというログがそれなりに残っているのです。かつてのニュースソースなりに。彼についてはそれが出てこなかった。また日本という小さな島国の情報であった、という影響もあるのかもしれません〉
〈なるほど、わかりました。それでは明日から本格的に調査に入ります。その前に想定されるリスクを教えてもらえませんか? また、その他に父からは?〉
〈お父様からは別で伝言を承っております。「私の持つスキルをすべてお前に譲る。ハンティングに役立てろ。お前の真の名でそれらは開かれる」と。それで、ご質問の想定されるリスクとは?〉
〈端的にいえば敵はどんな相手で、どんなことをしてくるのか。人数や武装の有無。殺人を厭わない連中であるか否か、とかです。おそらくはすべて最悪の側に倒して見積もっておけ、という相手だろうと推察してますが?〉
〈お察しのとおりです。さらに言えば敵対勢力のすべてを我々が掴めているわけではありません〉
〈敵方の狙いの1つや2つは知れていますか? これは単純に僕のモチベーションの観点から聞いています。どこまでの状況であれば逃げずに挑むか、その判断のために。今回のNFTを敵に奪われると、どんな事態が起こると想定されますか?〉
〈まずはクローン技術の復活です。それらの研究データは遺伝子情報と同様、破棄されたか我々で厳重管理しています。あたらしく情報取得することが禁止された今となっては医療用に利用する一部のデータしか世に残っていません。これではかつて作成できたクローンも作れはしない。しかし1人分でも人間の遺伝子情報があれば、今の技術をもってすれば、それを研究・応用することで再びクローンに辿りつけるでしょう〉
〈それこそオールドSFの映画にありがちな展開、というわけですね〉
〈次に寿命の復活です。現在の人類は自由選択か否かはさておき、すべての人が年齢を固定されています。それ以外の人間は1人もいない。そんな世にあって、逆に、自然死を求める研究をはじめている者たちがいます〉
僕は努めて表情に出さず、しかし内心で心臓が縮むような思いを味わっていた。とりわけ組織だってなにかをしているわけではない。しかし寿命の復活を己が望んでいるのも確かであった。
〈最後に一番の問題は違法NFT、通称デモンスキルの製造が可能となってしまうこと。これは――〉
「――運転はスキル? それとも自前?」
「私の自前よ」
燃え上がる我が家を背中越しに眺めながら唸る大型バイクに揺すられる。闇夜に白い息を吐いた僕へ彼女から言葉にならない謝罪の気持ちがテレパシーデバイスを通じて届いてくる。
「気にしなくていいさ」
「でも私が巻き込んだせいで」
「僕を巻き込んだのは僕の父だよ、君じゃない。ところでそれよりも……」
嫌な気配に僕が警告を発する前に彼女からも同質の感情が行き違いで届けられる。距離にして500メートル、長身のひょろ長い影が暗闇に揺らめいて見える。まるで地面からそのまま生えてきたかのようだ。
「宮本武蔵っ!?」
エルサの強烈な叫びが脳内に叩き込まれ、僕は思わず顔をしかめた。どうやらあれが噂のデモンスキル持ちで間違いなさそうである。
不完全な、本当にわずかな遺伝子情報の断片、たとえば対象の人物がかつて使用していた刀から採取した皮脂のような。それをAIのシュミレーションで無理矢理に培養・補完することでかつての偉人をVR世界に再現。さらにそこから先人らの技術を抽出し、スキルNFT化したもの、デモンスキル。
しかし今なおスキルの電気信号は人間の脳波から直接しか採取できなかった。いくら研究を重ねても、ベースとするスキルデータがあっても、どこをどう修正すると、どのような結果となってあらわれるのかが安定しないのだ。下手をすればインストール時に人体に悪影響を与える粗悪なスキルと化してしまう。西暦3000年を目前としても達人の業はデジタルに人の手で再現することが叶っていないのだ。これをこそ人体の神秘と呼べるのかもしれないけれど、さておき悪影響が出ようと精神が崩壊しようと一向に構わないといった部類の人間もいる。大半は「己で使うわけではないから」「己の部下に使わせるものだから」といった輩で、それをさせられている哀れな駒が眼前の影である。
左右にゆらゆら、黒い陽炎のように揺れる様は一目で尋常でないことが察せられる。その黒い影が2本の刀をすらりと構える。抜いた瞬間を捉えられないほど自然に、いつの間にか影は二刀を構えている。
「掴まって!」
言われるまでもなく僕はエルサの細い腰に手を回した。まだ300メートルあったはずの距離が、これまた気づけば3メートルにまで縮められている。一体なにが起こったのか。ともあれ既に剣豪の間合いである。エルサがハンドルを巧みに操り、バイクの進路を90度曲げて横へ飛び出す。減速をほとんどしない方向転換に感心する。かなりのテクニックだ。しかし敵はその上をいった。先読みしたのか真上から細身の影が降ってくる。その身に剣豪を宿し、とてつもない反射速度と跳躍力をもって。
「シオンっ!?」
「名前で呼んでもらえるとは光栄だよ、レディ! 出来れば僕の甘いマスクに余所見してないで今は運転に集中してもらいたいけどね!」
パルクールのスキルからテコンドーのそれへ。同時にカポエイラのスキルも混ぜ込む。バイクの座席に手をついて逆立ち、刃を避けながらの蹴りを狙う。いくら体捌きに長けようと空中での姿勢制御には限界がある。こちらも移動体の上とはいえ、後出しでの横の動きは接地面を持つこちらに分があった。鉄板を仕込んだ左の爪先で片方の刃を弾き、もう1本の刃は身を捻って避ける。そして残った右を相手の腹部に叩き込む。ダメージを与えることより衝撃を優先し、押しのけるイメージで蹴り飛ばす。
「今だ! 速く! 全速力で!」
「わかったわ!」
初回のコンタクトとしては十分過ぎてお釣りがくる。エルサからの依頼案件、その雰囲気は3日目にして十二分に感じ取れた。手に汗を握るどころではない。なによりリアルの世界において、この始末である。不正の隠しやすいデジタルジャングル、VR世界での妨害は常軌を逸したものになるだろう。バイクの振動に隠れ、僕はぶるりと身震いする。背筋に冷たいものを感じる。同時に生きているという実感が胸の内に熱くなる。
「君には感謝するよ。僕に依頼を持ってきてくれて」
「それは私じゃなくあなたのお父様に伝えるべきね」
有限。限定。レア。何事であれ数に限りがあるからこそ、そこに価値が生まれる。それは金塊であっても、デジタル資産であっても、そして人の命であっても。
大型バイクが闇の中を狼のごとく吠えた。冷たい風を頬で切りながら僕は先々に訪れる困難に思いを巡らせる。人生が変わる予感がした。
<了>
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