昨今では、コレクタブル NFT への注目度が高まってきていると感じます。
DappRadarで1ヶ月あたりのNFT取引量のランキングを確認すると、1位と10位を除き、他は全てコレクタブルNFTで埋め尽くされています。
私自身も海外のプロジェクトを中心にリサーチしたり、自分でNFTを買ってコミュニティに入ったりしていますが、コミュニティや運営の熱量の高さが凄まじいなと感じています。
そんな中、最近では「オンチェーンアート」と呼ばれるコレクタブルNFTが話題になり始めているため、今回はここに焦点を当ててみました。(今回は イーサリアム チェーンに限ります。)
オンチェーンアートとは、簡潔に説明すると
一般的なファイル形式(SVGなど)をAWSなどのサーバー上ではなく、直接 ブロックチェーン 上に配置したNFT
です。
ちなみに、前回ご紹介した「Blitmap」というコレクタブルNFTは、画像含むデータが”すべて完全に”イーサリアムチェーン上に保存されていることから、「フルオンチェーン」「インチェーン」と言い表すこともあります。
関連記事:【和訳】今話題のコレクタブルNFT「Blitmap」がパブリックドメイン化
今回は、そんな今話題となっている「オンチェーンアート」が重要である理由について、英文記事「Provenance and Permanence: Why On-Chain Art Matters」を日本語訳した後、最後にオンチェーンアートに対する私の考えについて述べていきます。
なお、日本語訳の部分でもし誤表現・誤訳などございましたら、お手数ですがhttps://twitter.com/yutakandoriまでご報告いただけますと幸いです。
日本語訳
以下は、「Provenance and Permanence: Why On-Chain Art Matters」の原文を日本語訳したものになります。
昨今のデジタルアートは大きな変化を遂げており、それらはすべてブロックチェーンによって推進されています。
多くの人々は、NFTアート(特にピクセルアート)を流行り物だとして払いのけるかもしれませんが、歴史はすぐにそうでないことを証明するでしょう。
モネと印象派は、彼らの新しいスタイルの絵画の確立によって見下されていました。
ゴッホは、自分が生きている時代に成功を収めることはありませんでした。
そして、モダニストの抽象絵画、ポップアーティストの日常の題材、ストリートアーティストのグラフィティ作品がアートとして確立されるまでには、しばらく時間がかかりました。
NFTアートは現在、これと同様の変曲点にあります。
しかし、これまでの芸術運動とは対照的に、NFTアートは、美術史に関連する最も問題のある2つの領域、つまり来歴と永続性を解決します。
パブリックチェーンに表示される来歴
アートの世界は長い間、来歴に苦しんでいます。
そのルネサンス絵画は、マスターまたは彼の工房の誰かによって描かれたものですか?
その署名されていないピカソが本物かどうか、その財産の保有者でさえそう言うのですか?
そして、路上にあるその図々しい画はバンクシーですか、それとも単に彼を模倣している人ですか?
ブロックチェーンの性質上、すべてのNFT(非代替トークン)は、アートの世界における主要な問題の1つである、来歴を解決しました。
NFTが、
- アーティストによって作成され、取引所の1つにアップロードされる
- Ethereumのコントラクトを通じて個人によって作成される(ジェネレーティブアートプロジェクトの場合は非常によくある)
かのどちらかで、パブリックチェーンへの入り口が作られます。
この入り口は、腐敗せず、そして否定できません。
作成した正確な時間と、誰がそれを作成したのかが記録されています。
さらに、NFTはブロックチェーン上に存在するため、そのNFTのすべてのトランザクションが記録されます。
それが人から人へどのように渡されたか、いくら支払われたか、何が取引されたか、そしてそれらの取引がいつ起こったかを正確に見ることができます。
NFTアートでは、特定の作品がアーティストに帰属するかどうかについての議論はもうありません。
言い換えれば、作品が本物のカラヴァッジョであるかどうかについての会話はありません。
ブロックチェーンで、これを行うはずがありませんよね。
永続的なものはない。すべての物理的なアートは腐敗しやすい
物理的なアートに関連する別の問題は、それが歴史から完全に消去される可能性があるということです。
日光、温度、湿度を調整するかどうかにかかわらず、ほとんどの美術館が最も貴重な資産を保護するために採用している、骨の折れるような「保存の問題」について考えてみてください。
次に、システィーナ礼拝堂のような傑作を以前の栄光へと戻すための、修復作業があります(多くの場合進行中です)。
アートは、第二次世界大戦の結果多くの作品が永遠に歴史から失われたように、地政学的な影響も受けます。
未来の世代のため、作品の永続性を保証するために試行錯誤しようとしても、これらすべての取り組みにはある程度のリスクが伴います。
ブロックチェーンは、この課題を排除するためのものです。
すべてのNFTが来歴の問題を解決しますが、永続性の問題を解決するのは一部のNFTだけです。
この理由は、「多くのNFTが実際のデジタルアセットが存在する場所を指しているから」です。
仮にそのアセットが削除された場合、NFT自体はブロックチェーン上のレコードを表示しますが、アートワークは失われる可能性があるのです。
事情に精通したアーティスト/技術者は、アートワークのレンダリングをブロックチェーンまたはオンチェーンに保存する方法を考案することで、この問題を解決しました。
これは、Scalable Vector Graphics(SVG)のコードを作成し、それをイーサリアムコントラクト自体に直接保存することで実現できます。
これは、アートワークがどこかのクラウドドライブに保存されているJPEGまたはPNGではなくなったことを意味し、NFTアートワークは物理的に永久にイーサリアムネットワークの一部になります。
それがオンチェーンアートの力であり、アートワークの表現はその来歴を記録するチェーンと同じように、腐敗しません。
このオンチェーンアートに向かう動きは勢いを増しており、多くの優良プロジェクトの特徴となっています。
CryptoPunksは確かにこれまでに作成された最も重要なNFTアートプロジェクトの1つですが、所有権の証明のみがチェーンに保存され、アセットは保存されません。
Larva Labsは、2つ目のプロジェクトであるAutoglyphsシリーズで、この問題に対処しました。
この作品は先駆的であり、オンチェーンアートの最も初期の例になりましたが、エンドユーザーはそれを再構築するために自分で少しの作業を行う必要がありました。
Autoglyph#3を見て、これがどのように機能するかを見てみましょう。
Autoglyph Number 3 from Larva Labs.
そのレンダリングに到達するには、このAutoglyph Ethereumコントラクトに移動し、「10. draw」までスクロールし、そのフィールドを展開します。
そして、Autoglyphの番号(この場合は3)の値を入力し、[Query]をクリックするとコントラクトを読み取り、次の出力を取得できます。
それは珍紛漢紛なまとまりに見えるかもしれませんが、誰でもAutoglyphを引き出すことができるように、Larva LabsがEthereumコントラクトを提供しています。
実際、技術者はこれを自動的に行うためのコードを作成しました。
したがってプロジェクトは完全にオンチェーンにありますが、その一部を使って表現するためには、「ある程度の労力」が必要です。
最近は多くのNFTプロジェクトが、一般的なファイル形式(SVGなど)をオンチェーンに保存することにより、この基盤の上に設計しようとしています。
SVGは一般的にオンラインでレンダリングできる形式であるため、これにより「ある程度の労力」が削減されます。
Dom Hoffmanによって作成されたNFTプロジェクトBlitmapは、オンチェーンアートワークのメリットを推進し始めたプロジェクトです。
(開示:私はBlitmapコミュニティの積極的な一員です)。
100のオリジナル作品と1600の兄弟のコレクション(コレクション内の別のカラーパレットで人がmintできる元の作品の派生品)は、完全にオンチェーンに保存されます。
OpenSeaまたはBlitmapのWebサイトに表示されるグラフィックは、Ethereumブロックチェーンが存在する限り、コントラクト自体のコードを確認するだけでどこにでも複製できます。
「Genesis Rose Blitmap#119」を使用するとどのようになるのか、見てみましょう。
Genesis Rose Blitmap #119, the sibling of the first two Blitmaps, Genesis #0 and Rose #1.
SVGを生成するには、BlitmapsのEthereumコントラクトに移動し、「28. tokenSvgDataOf」を入力し、Blitmapのナンバー119を入力して、コードを照会します(これはかなり長いため、ここには貼り付けません)。
そこから、それを取得して、他のアプリケーションで開くことができる* .svg拡張子の付いたテキストファイルとして保存するか、OwenShenがGitHubで提供しているようなオンラインレンダリングツールを使用できます。
「イーサリアムのブロックチェーンが存在しなくなった場合、NFTアートも存在しなくなる。」
そう言って、永続性の問題を真に解決することはできないと主張する人もいるかもしれません。
しかしこれはおそらく、「私たちが本当に得ることができる」ということと、限りなく近いものです。
ノードのネットワーク全体でブロックチェーンを複製および認証し、たくさんの分散アプリケーション(Dapps)とお金を分散的な方法で交換することにより、先の主張はあり得ないレベルでの壊滅的なイベントとなり、ネットワークの消滅を引き起こすものでしょう。
ブロックチェーンは、人類が作成した永続的なものに限りなく近いものなのです。
ブロックチェーンは新しい媒体
ブロックチェーンは来歴と永続性を提供するため、新しい芸術的な媒体になるという道をつくりました。
ウルトラマリンがルネッサンスで調達する珍しい塗料であったように、solidityのコードを書く知識というのは、今日のデジタル世界では珍しいリソースです。
これらのアーティスト/技術者は、文字通りまったく新しい媒体で作品を作成しています。
そしてオンチェーンでそれを行う人たちは、オンチェーンに情報を保存するなどの高いコストゆえに、彼らができることの一定の制約と制限が与えられるのです。
そして、彼らが何をしているのか、彼らがどのように限界を押し広げているのかを見るのはエキサイティングです。
Blitmapのように、アーティストが作った作品を、オンチェーンにするものもあります。
最近発売されたsolSeedlingsなど他のものは、アルゴリズムをシードし、少しランダムにアートワークを作成することで、ジェネレーティブアートを作成しています。
他にも、ニューラルネットワークと機械学習を使用して完全にユニークな作品を作成する0xmonsプロジェクトなどがあります。
この作品では、所有者が「gas」を支払ってオンラインにすることができます。
ブロックチェーンは新しいメディアです。
それは来歴と永続性を解決し、アルゴリズムによって完全に人間の助けを借りることができる新しい形の自己表現の道をつくっています。
そして、それはどこにも行きません。
最後に
今回は、「オンチェーンアート」が重要である理由について取り上げました。
最後に私の意見を述べると、画像データをURLの形式ではなく、直接オンチェーンとしてブロックチェーン上に載せる仕組みは、今後主流になっていくのではないかと思っています。
今はまだNFT黎明期なので、「NFTになっていれば良い」というスタンスのプロジェクト・ユーザーが多いことも事実です。
しかし、中長期的にNFTの永続性について考えると、「仕組みの部分への理解」に多くの人の関心が集まっていくことになるのは、必然の流れであると考えます。
実は私は3年前に、ゲーム系NFTを中心に集めていたことがあるのですが、久しぶりに OpenSea であるプロジェクトのNFTを見てみると、既に画像が表示されなくなっているものがありました。(一応プロジェクト名は隠しておきます)
これは、プロジェクト・サポートの終了とともに、オフチェーンで格納していた画像データが参照されなくなってしまい起きている現象です。
今後、数年スパンで考えるとこの事例のように、「保有しているNFTの画像データが突然表示されなくなる」という事例は出てくると予想されます。
だからこそ(特にNFTが高額であれば尚更)、「画像データがどこに保管されているのか」は知っておくべきことです。
普段からコードを書いたり読んだりする習慣がなければ気づきにくい視点かもしれませんが、この記事を契機に少しでもオンチェーンNFTの価値、そして画像データをどこに置くかの大切さについて一考していただけますと幸いです。
また、この記事が面白かった・参考になったという方は、Twitterなどでシェアしていただけると大変嬉しいです。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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